日食撮像原論とたくらみ
2020.06.15 Complete

Introduction

 アマチュアが皆既日食を撮像する天文学的な意味としては、先ずコロナの明るさと太陽の明るさの比が正確に判らないのでこれに寄与できる画像データを得る事と、現在の太陽観測衛星では太陽~2.5太陽半径の間の測光データが得られないので、この隙間を埋められる皆既日食中のコロナを撮影したデータを得ること、が挙げられる。
 前者のためにはC1~C2迄、C3~C4後に、あまり濃くないNDフィルター2(ND400×2)で減光して撮像した画像を得ることが機材に求められる。
 後者のためには、コロナが地球側に来るか反対側に向かっているか、と、FコロナとKコロナどちらか、を分別するため60度か45度ステップで偏光板を通した画像を得ることが必要となる。ここで2.5太陽半径迄のコロナ像を得るには、7(=(2.5+1)×2)太陽半径の写野が必要になるので、フルサイズ換算680mm以下の焦点距離のレンズが必要になる。

 とは言え、基本はアマチュアの特権で日食という天象を楽しみ、その一つに記念写真的な画像を得る事で、加えて天文学に寄与できればと考えている。

と言う事でたらむのは、

〇太陽(の光球面)とコロナの明るさの比を求める機材を組むこと

〇偏光板を通したコロナ撮像を行うこと

太陽(の光球面)とコロナの明るさの比を求める機材のたくらみ

ISO感度を固定し、皆既中と同じシャッター速度で太陽フィルターの有無だけを変えた画像を得ることで対応する。同じ機材でダイヤモンドリングも撮像することにする。

 ここでISO感度を揃える理由は、画像素子がため込むデータは同じだがこれを増幅して画像処理し、データとして記録するので、感度を変えると増幅率が変わるため、増幅率のブレがあった場合、データ処理が難しくなるのではないかと考えるため。シャッター速度も微妙にブレが出たら嫌。絞りは変わらないから、感度とシャッター速度を揃えればある程度形になるデータにならないだろうか?と考えた。加えて太陽フィルターも、いきなりND100000では濃度ムラが測れないので、ND400×2枚重ねか、ND200+ND500のタンデムにしておく。

 フルサイズのデジイチ(Nikon Z6)を使うので、ある程度の大きさの太陽像を得る為には、BORG77EDII(D=77mm, f=510mm、F6.6)にフラットナー兼の1.4倍エクステンダーを取り付けて、f=714mmF9.3として使う。

 Nikon Z6のノイズの出方を見ると、ピクセル等倍でみてISO感度を400以下に抑えたい感じ…なのでISO400に統一する。こんな表や計算サイトがあるのや過去に写した自分の画像を見た感じ、皆既中のシャッター速度はプロミネンスと極内部のコロナに1/3000秒、さらに広がるコロナは1/1000秒~1/2秒迄1.5EV間隔で7段、全行程10.5EV分を撮像する。

 もう一方で太陽面は、ND100000相当のフィルターを介してISO400F9.3だと1/1000秒くらいがどうやら適正露出なので、明るい方(太陽の真ん中あたり)1.5EV速い1/3000秒、周辺の暗い方向対応で1.5EV3EV遅い1/350秒・1/125秒を撮像する。

 で、これらのデータと共に、皆既日食の個人的白眉・醍醐味であるダイヤモンドリングの撮像もしたい。シャッター速度はシャッター幕による回折でにじみが出ないように1/500秒より遅くしたい。太陽の外縁をごく内部のコロナとプロミネンスが写って光球面が顔を出した時の光を撮像するなら、1/500秒でISO200が良いと過去の例を見て決める。

 こうした面倒な制御は、ニコンの公開するソフトウェア開発キット(SDK)をC++でプログラミングを行う)を基礎においてC# wrapperを介してC#でソフトウェアを開発する。なぜC++じゃないかというと、ニコン謹製SDKに付属するC++のデモソフトよりC# wrapperのデモソフトの方が素人には理解しやすかったから。

偏光板を通したコロナ撮像(偏光撮像)のたくらみ

前々回2017年よりなかなかうまくいかない偏光撮像装置を作っていたので、これをアップグレードしつつ使う。デジイチは2EV間隔7段の撮像がHDR撮像のモードとして組み込まれており、設定一発で出来るオリンパスのOM-D E-M10ml IIを使う。ステッピングモーターでフィルターターレットを回転させつつ、デジイチをレリーズするのは、PICマイコンで行う。偏光板の角度は0度・60度・120度か、0度・45度・90度・135度で、との事。今回は後者の45度ステップで撮像するとともに、1つ無偏光の素通しを撮像する。

 併せるレンズはBORG605EDII(f=350, D=60, F5.8)x0.85倍フラットナーを介して使用する(合成f=298, F5.0)ISO感度を400に設定し、シャッター速度を1/60秒、HDRモード2EV7ステップに設定すると、1/40001秒でシャッターが切れる。こちらでも太陽面の明るさを撮像できるよう、素通しにはNDフィルター2枚重ねも装備して撮像しておく。

 この機材で困るのはダイヤモンドリングが撮像できない事。SDKは無く、物理的に外部からシャッターを切る以外の操作するのは直に弄る等しないといけないので。

日食を撮像するための基礎と機材の微妙さ、多段階撮像の理由

〇基礎のキ
 
太陽(月も)は、画像素子上にレンズの焦点距離の1/100の大きさで結像する。例えば焦点距離800mmのレンズで太陽は画像素子上に8mmの大きさで結像する。35mmフルフレームであれば、画像素子の大きさは概ね24mm×36mmなので、縦方向に太陽が3個収まり、横方向だと4.5個収まる事になる。太陽面だけでは無く広がるコロナを撮像するにあたっては、太陽の画像素子上の大きさと共にどれくらいまでコロナの広がりを撮りたいか、も問題となります。多少写野の中心を外れても、ある程度の範囲でコロナが撮りたいかという事からも焦点距離は決めていく必要がある。

〇今回の機材
 上の2つは焦点距離700mm(フルフレーム相当)程の機材となりました。これには特に何か思い入れとかがあったわけではなく、偶然こうなりました。それで何が面白いか?といわれると面白くは無いけど、太陽面とコロナの明るさの比については両方でデータを撮れるので、偏光撮像はC2までの間とC3後にNDフィルターをかけて太陽像を撮っておけば、前者のバックアップになり、何か問題があってもダイヤモンドリングが撮れれば良くなる。太陽面とコロナの明るさの比に関しては、SDKを使って作るソフトでコロナの多段階撮像を自動制御するが、コンピュータに問題が起きたら手動でシャッターを押し、ダイヤモンドリングを撮像すればよい。コンピュータからの指示で動作開始する偏光撮像の装置は緊急時スイッチ一発で偏光撮像を自動で行うため、自動ではなく手動で撮影開始(と自動停止)が可能になる。

〇時に何故多段階で撮像するか?

 コロナは太陽の縁から直ぐの内部から、太陽から離れたところにある外部に向けて、1000倍前後明るさが違うので、1枚の画像では表現しきることが出来ない。内部と外部を段階的に露出を変えて撮像し、HDR(=High Dynamic Range)合成をすることで、やっと目で見た感じに近づけて表現できるようになるため。露出のステップは2EV程度の間隔で撮影すればよいようです。太陽面とコロナの明るさの比に関しては、感覚的に1.5EV間隔で撮像する事にした。

ダイヤモンドリングと多段階撮像の例


1/2000sec:シャッター幕の回折で上方向に光芒が出た
使用機材
 レンズ:BORG77EDI (510mm F6.6)I
 カメラ:Nikon D7200
 ISO感度:320

1/8000sec

1/3000sec

1/1000sec

1/350sec

1/125sec

1/45sec

1/15sec

1/6sec

1/2sec
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